2004-07-13
 驚異の扇風機
 
暑中お見舞い申し上げます!

と、申し上げたいのですが、近畿地方、まだ梅雨は明けておりません。暑中見舞いの葉書は梅雨明けから立秋までの間に書くものだと誰かに聞いた記憶がありますが、いったいいつ出したらいいんでしょ? 去年なんか8月1日に明けてるんですよ。けど今年は早そうですね。今日あたり明けるんじゃないでしょうか。というより、梅雨ってありました?

なんにしても関西は暑いです。曽我さん、インドネシアは日本より涼しいのと違いますか? 私、3年前の夏にバリ島へ行きました(珍道中は前にご報告しましたね)が、向こうの方がカラッとして過ごしやすかった。最高気温も何度か低いんです。避暑に行ったように思うたも〜ん。

先日、スーパーで扇風機を買いました。安かったので衝動買いしちゃいました。でもやっぱり勇気が要りますよ、1,480円の扇風機買うのは。安過ぎるじゃないですか。それも大人のん(つまりおもちゃじゃないということです。このニュアンス、落語の「へっつい盗人」ご存じの方は分かりますよね)ですよ。大丈夫かいなと思いますもん。それも税込総額表示ですから1,480円ポッキリなんです。……ポッキリはおかしいか。もともと半端なんやさかい。

しかも置いてある場所が怪しい。冷凍食品の隣なんですから。冷凍のさぬきうどんの横に陳列してある扇風機をあなたは信用できますか?

しばらくにらんで、「ま、ええか」と積み上げてあった箱を一つ持ちました。その軽いこと軽いこと。これ、ほんまに扇風機かい? 子どもの頃、うちにあった扇風機って無茶苦茶重かったですよ。あれと一緒にしたらいかんけど、一瞬、そのまま返そうかと思いました。そこでまた勇気を振りしぼり、レジまで持って行きました。

レジのお姉さん、いつものように笑顔です。そうなるとそのお姉さんの笑顔まで疑いの目で見てしまいます。

「騙されてこんなもん買うて帰りよる。ケッケッケッケッ……」

笑顔がそういうふうに見えてしまいます。しかし私も男です。今さら引き下がれません。扇風機と心中するつもりで知らん顔して立ってました。お姉さんがバーコードを「ピッ」とやると値段が出てきました。本当に1,480円でした。ひょっとして桁が間違っていて、14,800円請求されるのと違うかと思って冷や冷やしてたんです。支払いを済ませて出て行きかけると、

「あの〜、お客さーん」

お姉さんが追いかけて来はります。私、思いました。

「これはやっぱり間違いなんや。もっと払わんといかんのや。それとも警察へ突き出されんのやろか? そんな悪いことしたやろか?」

気が弱くなっている時は悪いことばかり考えてしまいます。覚悟を決めて振り返ると、

「お客さん、保証書に日付け入れるのを忘れてました」

「えっ? 1,480円で保証書まであるの?」

もうちょっとで口に出すところをグッとこらえました。考えたら電化製品なら当たり前です。しかし、私は1,480円で保証まで求める厚かましさはない……。

日付けを入れてもらうと逃げるようにそそくさと立ち去り、誰にも見られぬよう注意しながら箱入り扇風機を持ち帰りました。開封すると、まず部品がそろっているかの点検です。いつもは例えパソコンを開ける時もそんな面倒なことしませんが、今日は何故か虫が知らせるのです。ひょっとして羽根が付いてへんのと違うやろか?

幸い、全部部品はそろっています。早速、組み立てにかかりました。「Made in China」と誇らしげに書いてあります。ドイツ製ですな。……すんません。これは落語「青空散髪」からのパクリです。

土台になる部分が不安定で、倒れそうです。やっぱり1,480円ではこけても仕方がないんでしょう。けど落語「道具屋」の2本足電気スタンドやないで。壁にもたせかけとかんと使えん扇風機なんやろか? ……違いました。他のパーツをはめ込むと安定しました。そらそやろなぁ……。

羽根を取り付けました。この羽根がまた軽いんです。こんなもんで風は来るんやろか? この時点で一度、スイッチを入れて回転させてみました。裸のままです。指を出すのは危険です。回ることは回りました。が、ここでこの扇風機の最大の弱点が露見しました。羽根が震えてるんです。ブルブルブルブル……。いびつと言ったらよいのでしょうか。つまり、軸になる穴が中心からちょっとだけズレとるんですな。これが自動車なら大問題でしょう。

間近で羽根を見つめていた私は思わず横へ逃げました。回転している羽根がはずれて飛んできそうな気がしたんです。ブルブルブルブル、ブルルンルーーン……。一瞬、血だらけになった私の顔が見えてしまいました。タイヤが飛んで来るのも怖いけど、扇風機の羽根も怖い……。あわてて枠を取り付けました。もうこれで、羽根は飛んできません。檻の中ですから。けど、1,480円ってスリル満点ですねぇ。ほんと、楽しませてくれます。

多少のことは目をつぶりましょう。小刻みに揺れながら回る扇風機は家族の一員になりました。……そして3日目。こんなことってあるんですね。うちの娘が扇風機のすぐそばでランドセルを開けたんです。ランドセルのふた(と呼んでいいのかな?)の留め金、磁石でくっつくところがありますね。金属です。少しウェイトがあります。それが扇風機の枠の中、格子状になってる細〜い隙間へ飛び込んだんです。

ガッシャーーン!

どっちが勝ったと思います? 勝負は目に見えてます。驚くほど軽く薄い扇風機の羽根が勝つわけありません。哀れ、扇風機は羽根が1枚欠けてしまいました。1,480円の扇風機はわずか3日の命だったのです。開封の時、虫が知らせたのはきっとこれだったのですね。合掌。

次の日、私は瞬間接着剤を買ってきました。かわいそうな羽根をなんとかしてやりたかったのです。エライもんですね。くっつきましたよ。薄くてもなんとかなるもんです。瞬間接着剤ですが、念のため乾くのに1時間ほど待ちました。

さあ、スイッチを入れてみましょう。回ります回ります。よかったよかった。羽根はくっついたままですもん。でも振動が……。前より震えの幅が大きいです。前は羽根だけやったのに、今は扇風機全体がブルブル震えてます。床まで振動してる……。

部屋の真ん中に置いてあった扇風機が、半時間ほどすると部屋の壁へへばりついてました。自走式扇風機発明! ……そんなアホな!