落語用語の基礎知識
落語は古い言葉、今は使われなくなった言葉がたくさん出てきます。それを独断と偏見、
米二流解釈で解説してみました。ですから決して世間で通用するものではありません。
参考文献

 牧村史陽編「大阪ことば事典」講談社学術文庫
 前田勇編「上方語源辞典」東京堂出版
 井之口有一・堀井令以知編「京ことば辞典」東京堂出版

あ〜お / か〜こ / さ〜そ / た〜と /  な〜の /  は〜ほ /  ま〜も /  や〜ん / 
青菜
☆ 「柳蔭(ヤナギカゲ)」‥‥噺の中に出てくるお酒。但し、銘柄ではない。焼酎と味醂を混ぜ合わせたもの。一種のカクテルですな。江戸では「直し」と呼んだ。これを井戸で冷して飲むのが最高の贅沢だった。この甘みと冷たさが貴重なのである。今の私の最高の贅沢は、もちろん冷蔵庫で冷やしたビールです。井戸ではねぇ……。

☆ 「青菜」‥‥この青菜の種類は何なのか。ほうれん草は冬が旬、小松菜かな? これに乗ってきたのが、京都祇園の料理屋「いし田」の大将。いし田説では時期的に考えると「シロ菜」「大根の間引き菜」あたりが有力とのこと。いっそ、これを食べようじゃないかと「青菜を食べる会」をやらせてもらった。落語を食べる会シリーズの始まりである。落語を聴いてもらった後、いし田さんが提供してくれたのは「ハクサイ菜」のお浸し。これって白菜とは別物である。参加者全員でいただいた。でも、大将が「ハクサイ菜」を選んだのは主に予算と仕入れの関係ではないかと私は睨んでいる。

☆ 「義経」‥‥ご存じ悲劇の武将、源義経である。幼名を牛若、後に検非違使となったところから九郎判官(クロウホウガン)と称した。落語には歴史上有名な人物、いわゆる偉い人はあまり出てこないが、義経はいろんな形で出てくる。やっぱり若死した人は後々得ですな。若死で思い出すのは京都の「上方落語勉強会」の世話人。初代の桂音也さんは42歳でこの世を去っている。二代目の桂歌之助兄が55歳。三代目の私、桂米二は只今48歳。まだ生きてます。私が何歳で死ぬか一番楽しみにしているのが、うちの国宝で文化功労者。御年80歳である。

☆ 「あんけらそ」‥‥要するに悪口。アホ、ボケ、カス…。東京ではアッケラカンになるらしいが、なんか雰囲気出ませんな。「あきれ相」の転訛という説もあるが、実際のところはよくわかりません。この言葉の響きを愛する噺家は多く、故桂文枝師匠には「あんけら荘夜話」という著書がある。

愛宕山
★ 「愛宕山」‥‥京都市の北西にそびえる標高924mの山。山頂には火伏せの神様で有名な愛宕神社がある。戦前は頂上近くまでケーブルカーが敷設され、ホテル、遊園地、スキー場まであって、ちょっとしたリゾート地だった。今はがんばって歩いて登るから落語の「愛宕山」と条件は同じ。私は中学の遠足で一度登ったことがあるだけ。ちなみにうちの国宝は一度も登っていないはず。

★ 「ババつかみ」‥‥手相が悪いこと。

★ 「根太(ネブト)」‥‥太もも、尻などにできる根の大きい腫れ物。

★ 「お染久松」‥‥実在した油屋の娘お染と丁稚久松の心中を題材に浄瑠璃、歌舞伎に仕立てられた。「新版歌祭文」の中で一番良く上演される「野崎村」では久松は駕籠、お染は船と分かれて帰って行く場面がある。

★ 「かわらけ」‥‥漢字で土器と書くと分かりやすい。主に酒器に使うものを言うが、この場合は素焼きの小さい皿のような物である。落語には登場しているが、愛宕山にはかわらけ投げができるところはない。近いところで高雄の神護寺には今もかわらけ投げがあって2枚で百円。今のかわらけはエコロジーで投げられた後は風化して土に返るという。下半身に毛がないこともかわらけと言うが、何故かうちにある辞書には載ってない。

阿弥陀池
☆ 「和光寺」‥‥所在地は大阪市西区北堀江。元禄11年(1698)智善上人が善光寺(長野県)本尊出現の地として寺堂を建立し、蓮池山智善院和光寺と称したと伝えられる。阿弥陀池の名前で知られ、広大な境内では講釈、浄瑠璃の席、見世物小屋、物売りの店が並んだ。富くじの興行や植木市も有名であった。以上、大阪市のホームページから。私はここへは二度行ったことがあるが、二度ともお葬式だった。お葬式の時にウロウロするわけにもいかず、残念ながら境内の様子は知らない。

☆ 「すまんだ」‥‥隅っこ、隅の方という意味だが、そういう名前の飲み屋があったと聞いたことがある。詳しいことは私も知らない。すみません。

池田の猪買い
★ 「池田の猪買い(イケダノシシカイ)」‥‥落語のタイトルがいかにエエ加減に作られたかという見本のようなもの。池田へ猪の身を買いに行くので「池田の猪買い」。もし食べる場面があったなら、「池田の猪食べ」になっていただろう。昔、私は意味が分からなくて辞書を調べましたよ。なかったけど。当然のことながら世間に「シシカイ」なんて言葉はない。

★ 「池田」‥‥池田という地名はアホほどある。池田町は北海道、長野県、岐阜県、福井県、徳島県と調べたらなんと5つもあった。近年の合併でちょっと変わってるかもしれませんが……。落語に出てくる池田市は大阪の北のほうにある。阪急電車の急行に乗ると梅田から20分。大阪空港(伊丹)のすぐ近く。空港に猪が出ることがあるのかないのかは知らぬ。

★ 「冷え気」‥‥広辞苑で「冷え」を引くと「腰から下の冷える病」とあった。今はそうかも知れぬが、昔は性病のことを言ったらしい。この噺の主人公が患う病気は淋病。古い演出では「セガレが患うてる」「リンゴ屋のヒョウスケでリンビョウ」などの軽いくすぐりがあるが、今はお客様が「淋病」という言葉で引いてしまわれることがあるので「冷え」と言ってぼやかしている。

★ 「五百匁(ゴヒャクモンメ)」‥‥1匁は3.75gなので1,875gになる。1貫の半分。今、猪の身は100gあたり何千円もしますよ。

★ 「山猟師(ヤマリョウシ)」‥‥山に入って鉄砲バーンと撃つ人。東北には「またぎ」と呼ばれる人が居るが、それに近い存在。知人に「またぎ」と友達だという人がある。「またぎ」は体中傷だらけで目つきも鋭くヤクザが逃げるらしい。これならイノシシも怖がるでしょう。

植木屋娘
★ 「パイライフ」‥‥噺の中で植木屋の幸右衛門が女房の顔のことをこう言った。この意味は…。実は分からない。分からないまましゃべっているのだから、たいしたものだ。驚くなかれ、うちの師匠も知らずにしゃべっている。国宝&文化功労者がそうなんだから、これでいいのだ。
牛の丸薬
☆ 「丸薬」‥‥古くは丸子(ガンジ)と言った。丸く固めた薬。私は丸薬といえば正露丸や七ふくを思い浮かべる。前者は下痢止め、後者は便秘の薬。まったく効き目が逆なのに同じような薬という印象がある。子どもの頃の常備薬であった。一ぺんぐらいは間違って飲んでるでしょう。

☆ 「大和炬燵」‥‥土でできた炬燵。中に炭団を入れるが、ぼんやりと温まって熱くなり過ぎないところに人気があった。

☆ 「干鰯(ホシカ)」‥‥鰯を天日で干し固めてこしらえた肥料。高価なもので裕福な農村で使った。「牛の丸薬」ではこれを材料に使って農家をだますところから、あちこちの田舎で商売をしている桂文我君の仕事を仲間内のシャレで干鰯企画の仕事と呼んだ。誰が名づけたのか知らないが、円楽一門が所属するプロダクション星企画のシャレでもある。(文我君が田舎の人をだましているというわけではありません)

牛ほめ
☆ 「普請(フシン)」‥‥一般的に家を建てること。建築。ホント、この頃使わなくなりましたねぇ、この言葉。「牛ほめ」ではこの誉め言葉にずいぶん難しいものが出てくる。私もこの噺をやるについて、その昔、事細かに調べ上げた。調べ上げて納得したのがいけなかったのか、今は綺麗に忘れてしまった。ですから、あんまり細かいことは質問しないでね…。

☆ 「探幽」‥‥狩野探幽(カノウタンユウ1602-1674)。絵師。江戸幕府誕生の前年に京都で生まれた。江戸移住後、16歳で幕府の御用絵師となった。二条城、名古屋城、大徳寺などの障壁画を手がけた。落語には狩野派の絵師が時々登場する。

☆ 「愛宕さんのお札」‥‥元来、この噺では「秋葉さんのお札」を大黒柱に貼ることになっている。但しこれは静岡県で遠い。高松でこの話をやったときに、地元の方から「金比羅さんのお札も火除け魔除けになりますよ」と言われたので、「金比羅さんのお札」でやってみた。「愛宕さんもどう?」と言われて「愛宕さんのお札」でもやってみた。つまり私の「牛ほめ」は「秋葉」「金比羅」「愛宕」の3バージョンがあったわけだ。あるとき、最初に3つのうちのどの神社の名前を言うたのか忘れてしまい、サゲ前になってしどろもどろになってしまった。それに懲りてからは私が京都の人間なので「愛宕さんのお札」を貼ることに決めている。

うなぎ屋
☆ 「牡蠣船(カキブネ)」‥‥晩秋の頃、広島で牡蠣が獲れるようになると土佐堀川や堂島川、道頓堀まで船でやって来て、牡蠣の料理を出した。季節が終わると船を畳んで帰って行った。17世紀末頃から始まったが、宝永年間、大阪の大火の折、聞きつけた広島の牡蠣仲間が罹災者の救済に当たった。その功により大坂での独占営業権を幕府から認可された。数十艘が同時にやって来て開店し、帰航するのも同時であったという。ところが明治の頃から広島へ帰らず船を据え付けたまま商売するところが出てくるようになった。牡蠣だけではなく川魚料理も提供するようになり、牡蠣船の季節感もなくなった。大阪ではまだ淀屋橋辺りにあるはず(未確認情報)。

☆ 「癇症病み(カンショヤミ)」‥‥病的に清潔な人。きっちりした人。ここまで行くとあまり好かれない。

☆ 「蒲焼」‥‥鰻の代表料理。鰻を串に刺して焼き、たれをかけたもの。蒲鉾(カマボコ)焼の略という。最初は裂かずに丸焼きにした。かまぼこと同じでガマの穂の形に似ているところからの名である。江戸初期になってから裂いて開くようになった。関西は腹から裂き、江戸は背から裂く。武士が多い江戸では切腹を嫌ったためという。ちなみに「かねよ寄席」のかねよさんは江戸風。ギター侍こと波田陽区さんは切腹ばかりしてはりますが、どちらがお好み?(最近、見ませんねえ)

親子茶屋

★ 「しだら」‥‥行状。ていたらく。多くは悪い意味で用いる。ダラシないは、シダラないの転語という説もある。上に「ふ」をつけると、ふしだら。ふしだらな娘さん、と言うと意味がたいへんよく分かります。

★ 「すぽぽん」‥‥何のかの。特に意味はないが、先の言葉を受けて漠然と物をさして言う語。娘さんが一糸まとわぬ状態はスッポンポン。相撲取り、スッポンポンで風邪引かん……。(落語とはなんの関係もありません)

★ 「畢竟(ヒッキョウ)」‥‥つまるところ。結局。

★ 「黒焼き」‥‥民間薬の一種。爬虫類、昆虫類など動物を蒸焼きにして炭化させたもので、粉末にして用いる。イモリの黒焼きは惚れ薬として有名。本当はヤモリで、中国から流布された説ではヤモリを陰干しにして粉にし、女性の体に塗ると赤いあざができて取れなくなる。但し男子に接すると消えるという。そんなところから女性を監視するのに使った。そこからどう解釈をされたのか分からないが、いつの間にか惚れ薬となったのであろう。真偽のほどは分からないが、今、女性にこんなことをしたらどんなしっぺ返しを食うか分かりません。

★ 「しごき」‥‥しごき帯の略。一幅の布を適当に切ってしごいて用いる帯。

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